未来警察(2)

エレカは音も無く地面を滑るように走り始めた。


中型バイクの車輪を4つそのままつけたようなそのボディが、日の光を浴びながら進んでいく。


「矢島さん。今日はどーします?」


司郎はいつものように、そう聞いてみた。


「今日『は』だと? …そんなもん、いつもと同じだよ。適当に周って、適当に駐車禁止札貼って、適当に飯食って、終わりだ」


矢島は不機嫌そうに言った。


「そう、その昼飯っすよ。昼飯」


「ナンダヨおまえ。もう腹が減ってるのかよ」


「今朝起きるの遅くて、なんも食ってないんすよねー」


赤信号が青に変わるまでの時間、司郎はそんな話をしながら『ペンPC』を操作していた。
この正式名称でソレを呼ぶ者は少ない。
ボールペンより少し太く、少し長くしたソレは、小さいが立派なコンピュータであった。
否。より正確にはコンピュータの基本構成の内の一部、即ち、『入力装置』と『出力装置』、そして『外部記憶装置』の機能を持った小型デバイスである。
正式名称の『ペンPC』より、製品名である『タクト』と呼ぶ者が多い。


「まー、とりあえず西通りから順番に周っていけや。そしたら牛丼屋でもなんでもあるだろ」


「さすが矢島さん。話がわかるっすね…って、何やってんすか?」


後部シートで膝元をじっと見つめている矢島を見て、司郎はソレを覗き込んだ。


「うわっ。矢島さん、まだPDAなんか使ってるんすか!?」


「バカヤロウ。コレだって立派なPCよ。タクト同様、リソースレンタルは出来るんだからよ」


「今時キー入力なんて流行らないっすよ…モーションクリックと、音声変換あれば、キーボードいらないっしょ?」


「うるせぇ。ほら、青だぞ」


矢島は下を見ながら言った。信号は、確かに青だった。


「うわっと…」 司郎は慌てて車を発信させた。




続く