未来警察(1)

柊司郎(ひいらぎしろう)がこの職場に配属になってから、ちょうど1年たった日だった。


「仕事だ」


彼の上司であり、仕事上コンビを組むパートナーでもある矢島永一(やしまえいいち)にいつものように呼びかけられて、彼は席を立った。


オフィスを出て、駐車場の車に乗り込む。
スライド型のドアを開くと、前後にシートがふたつ。
定員3名の電気自動車『エレカ』である。
数年前に、こんな車が一般道路を走るなど、誰が想像しただろう?
実用電気自動車第1号の『エレカ』は、「始まりにして、最高傑作」と言われた電気自動車である。
低燃費で足回りの軽い小型車として爆発的な人気を呼んだ。
何しろ、普通の車庫に2台並んで入るのだ。駐車スペースが不足しがちな日本において、生まれるべくして生まれた車と言っていい。


運転席がある前のシートは一人。後部シートには二人分のスペースが用意されている。三角錐を横向きにしたようなシルエットは、一昔前の未来の乗り物のように思える。


「しかし、チンケな車だよな。オイ」


矢島が後部シートに座り、司郎は運転席へ。
今年で45になる矢島は、どうもこのエレカが気に入らないらしい。


「仕方ないですよ。環境性能や狭い道での機動性。どれを取っても、エレカより上の車はまだ無いッスから」
「車ってのはもっと、どっしり構えててくれないとな。足腰が弱いとダメなんだよ」
「はいはい」


いつものように、グチから始まり、グチに終わる。
司郎は適当に相槌を打っていればいい。それが、この1年で学んだことだった。


「ま、こいつらのお陰で、オレらの食い扶持があるんだから、文句は言わないけどな。さ、出してくれ」
「了解です」


司郎はスーツの胸ポケットから『ペンPC』を取り出し、エレカを起動させた。




続く